成年後見と不動産売却

成年後見人制度

はじめに

成年後見人制度

親が高齢で認知症になり、介護が必要となったため、有料老人ホームに入居する費用をまかなうために親名義の不動産を売却したいが、どのように手続きを進めたらいのか」又、「親名義の自宅が、空き家になってから何年も経過し、防犯面の不安や庭の植栽手入れ等、維持管理が大変なため、売却してしまいたいが身内が代理で売却可能なのか」等・・、という相談が増えてきています。

急速な高齢化が進む中で、何らかの介護が必要と考えられている75歳以上の後期高齢者人口の割合は、2005年においては約1160万人(総人口に占める割合約9%)であったものが、2025年には約2170万人(約18%)に急増する見通しとなっています。

このうような社会問題化しつつある高齢者の所有不動産の売却については、「成年後見人制度」の利用を検討していくことになります。成年後見制度を利用することで、相続時のトラブル対策に繋がる場合もございます。

それぞれのご家庭によって状況は異なりますが、以下の内容が問題解決へ向けて少しでもお役立て頂ければと思います。

> 賃貸での成年後見制度の利用をお考えの方はこちら

不動産売買には所有者本人の意志確認が必要

不動産売買には所有者本人の意志確認が必要

不動産の売却には必ず所有者本人の意志が不可欠です。
不動産を売却すると所有権移転登記の申請の時に司法書士より本人であることと売買の意志確認があり、所有者は司法書士への委任状に署名し実印を押印します。本人の意思確認ができないときには所有権移転登記は申請できずに売買は成立致しません。

不動産売買の立合決済を経験したことがある方はご存じかもしれませんが、このとき司法書士が売り主が押印した印影のチェックをかなり念入りおこなうのもこのためです。代理人が立合決済をするときもありますが、この場合も司法書士は事前に本人確認及び売買意思確認を行った上で決済を行います。売買契約は委任状で締結した場合でも、最終決済時に所有者本人の意思確認ができない場合は、取引を成立させることができなくなり大変な問題になることがあります。

高齢者の不動産売却理由

高齢者の不動産売却理由

不動産を売却するときには必ず理由がありますが、昨今は平均寿命が延びたこと、高齢者のみの世帯が多くなってきたこともあり、生活費や医療費、介護費用に充当するための不動産売却が増えてきたように思います。

不動産を所有している方(仮に夫とする)が認知症により医療費や介護費用が必要になった場合に、その連れ合い(仮に妻とする)が不動産を売却してその費用に充当しようとしても本人の意思確認ができないので売買を成立することができなくなります。妻が実印や権利書を所有していれば不動産売買は可能と思いがちですが、登記に必要な書類は揃えることができたとしても夫の意志確認ができなければ結果としては登記はできません。

同様の理由で高齢の親の不動産を子が売却しようとしてもやはり売買はできません。これからも高齢化社会は益々進み、今後はこのような理由による売却不動産が増えてくることが予想されますので、はやめに対策する必要があるかと思います。

成年後見人制度とは

成年後見人制度とは

大きく分けると、「法定後見制度」「任意後見制度」の2つがあります。

法定後見制度

対象となるのは、判断力が十分ではない成年者です。
その方たちに後見人を選任し、当事者の意志をできるだけ尊重した上で、その権利を保護することが目的となります。後見人の仕事は財産管理と身上監護(療養・看護につき適切な配慮をすること)となります。後見人になれる人は、親族、弁護士、司法書士、社会福祉士、及び法人です。家庭裁判所に申し立てをされますと、裁判所から依頼された医師が本人の意思能力を鑑定(評価)し、その資料をもとに適切な後見人を選任されるというのがおおまかな流れになります。本人の能力によって、後見、補佐、補助という分類に分かれます。また、申立にかかる費用や後見人等への報酬等はすべて本人の財産から支払うことになります。

任意後見制度

本人が前もって代理人(任意後見人)に、自己判断能力が不十分になった場合の財産管理、身上監護の事務について代理権を与える「任意後見契約」を公証証書で結んでおくことができます。

成年後見人手続きの方法について

成年後見制度を初めて利用するにあたって,よく質問がされる事項をまとめてあります。

どのような人が申立できるのか?
申立ては,本人,配偶者,4親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,検察官等が行うことができます。(民法上の申立権者)
申立をする方がいない場合は、どうすればよいのか?
本人に配偶者や4親等内の親族が無く,又は親族との音信不通の状態で「審判の申立て」を期待できず、本人の保護を図るために申立てを行うことが必要な状況にある場合に市町村長が申立てをすることができます。(老人福祉法,知的障害者福祉法,精神障害者福祉に関する法律の規定による申立て)
どこへ行けばよいか?
審判申立ての手続 は申立人が本人の住所地の家庭裁判所に申立書を提出します。
申立てから開始までどれくらいの期間がかかるのか?
審理期間については、個々の事案により異なり、一概には言えませんが、多くの場合、4か月以内となっています。
必要な書類は何か?
・申立書(家庭裁判所) ・戸籍謄本 ・後見登録事項証明書(法務局)
必要な費用は何か?
・申立て手数料 ・通信切手 ・登記手数料
※その他後見や保佐の開始の審判での鑑定手続のための鑑定費用が必要な場合もあります。

手続は成年後見人になろうとする本人でも裁判所へ申し立てて行うことができますが、時間と労力を考えると専門家に依頼した方がよいかもしれません。
専門家は弁護士や簡裁認定の司法書士に依頼することになります。専門家である弁護士や司法書士に依頼するときは報酬を支払う必要があります。費用はもちろん本人が行った方が安いのですが、専門家に依頼しようとするときには、事前に内容を打ち合わせをして概算の費用を提示して頂くようにしましょう。

成年後見人と財産管理

成年後見人と財産管理

成年後見人は財産の管理(預貯金の管理、不動産等の売買契約や賃貸借契約の締結)や生活、医療、介護に関する契約、新築、増築、改築や他の重要な法律行為を被成年後見人に代わって行います。この場合は成年後見人は相続を受けたのとは異なりますので、あくまで被成年後見人の為におこなうことに限られ財産を成年後見人のために売却したりすることはできません。被成年後見人が居住している不動産を売却、賃貸するときには裁判所の許可が必要になります。

成年後見人制度の適用例

成年後見人制度の適用例

複数の不動産を所有していたAさんは、10年程前から、売却代金を生活費に充当するため土地の売却を随時行っていました。Aさんは当時80歳でしたが不動産売却の意志判断が明確にあり取引をおこなうことがスムーズにできました。

その後、Aさんは高齢化により少しずつ痴呆がすすみ2年ほど前には寝たきり状態になり意志判断ができなくなってしまいました。介護の認定をうけましたがAさんの妻と子による介護は金銭的にも体力的にも大変な負担となり、1年前にはAさんの妻の所有する土地を売却することになり契約も済ませましたが、Aさんの妻も心臓病を煩い意志判断はできるものの外出はほとんどできなくなってしまいました。

土地の決済には代理人として子が立ち会うことになり決済前には買主が依頼した司法書士が事前にAさんの妻が本人であることと売却の意思確認をおこなうことで取引は無事に完了いたしました。

ここで心配になったのはAさんの子です。その時の土地の売却金額は少なくAさんと母親であるAさんの妻の生活費、医療費、介護費でせいぜい1年分にしかなりません。また近いうちに土地を売却する必要があったのですがAさんの妻の名義の土地はなく、次に売却をする土地はAさん本人名義のものしかありません。前の土地の売買の時に司法書士の面接に同席したAさんの子は、今後のAさんの土地の売却には本人の意思確認はできなくこのままでは売却は難しくなることを認識したのでした。

そこでAさんの子に成年後見人制度を紹介し、担当の司法書士に手続を依頼いたしました。その後、Aさんの子はAさんの成年後見人としての認定を受け、Aさん名義の土地を必要分だけ売却することができました。現在は、経済的に今後に備えることができ安心して過ごしています。

 

成年後見と不動産売却

成年後見制度利用を利用した不動産活用術

成年後見制度を利用するには

成年後見制度を利用する場合、当然のことながら「成年後見人」を決定しなければなりません。

一般的には

成年後見制度

  • 成年被後見人の親族(配偶者・子など)
  • 司法書士
  • 弁護士
  • 社会福祉士

などが、成年後見人となります。
また、成年後見人の業務は「財産管理」「身上保護」の二つがありますが、ここでいう身上監護とは現実の介護行為は含まれていません。よって、事実上の業務は「財産管理」となり、財産目録を作成し、収支管理等を行うことが主となります。事務報告については、家庭裁判所の請求によって行いますが、一般的には年一回程度の報告になるケースが多いようです。

このように、成年後見人には、事務作業の業務を行うことから、毎月、業務報酬を受け取ります。また、取り扱う財産の額や事務作業の複雑さを勘案して報酬額は決定されますが、月々3~5万円程度の報酬設定が多いようです。

財産管理

財産管理

  • 現金・預貯金、不動産の管理財産管理
  • 収入・支出の管理
  • 有価証券等の金融商品の管理
  • 税務処理(確定申告・納税等)

その他、身内が成年後見人になる場合は無報酬のケースもあるようですが、これもまた財産の額や事務作業の量によっては報酬を受け取ります。尚、余談ですが、身内が成年後見人になることについては、賛否両論あり意見や考え方が分かれるところです。

以上のことから、基本的には成年後見制度を利用するには「労力」と「費用」がかかります。「労力」については、最初に手続きさえ行えば、あとは専門家に依頼すれば良い部分はありますが、「費用」については制度利用期間中は必ず発生します。一度、成年後見制度を利用すると、終身行うこととなるため、費用負担も終身かかります。

成年後見制度利用に伴う不動産活用

成年後見制度利用に伴う不動産活用

そこで管理財産の中に、利用していない不動産があれば、賃貸利用して不動産収入を得て、成年後見制度利用の維持費に充当します。
例えば、その不動産が本人が住まなくなったご自宅なら、賃貸して賃借人に利用してもらうことによって、建物劣化も軽減されるような効果も見込めます。また、残りの賃料収入で高齢者施設の費用やその他の生活費に充当することも可能です。

その他の効果として、将来の相続時には、貸家建付地・貸家権などで、相続評価の軽減により、節税対策にも繋がります。(賃貸方式も、定期借家契約形態にすることによって、将来の売却や自己利用などにも対応可能です。)そもそも、成年後見制度は、判断能力が不十分な方にたいする“保護”と“支援”が目的ですが、保有財産を“守りながら活かす(生かす)”という視点も必要かと思います。先行きが不透明な近年の経済状況について、少しでも安定させる方法の一つとして、成年後見制度利用に伴う不動産活用が存在します。

成年後見制度利用に伴う不動産関連サービスを行うには、様々な専門知識が必要であり、業務内容も複雑です。それ故に、一般的な不動産会社は成年後見関連の不動産業務については懸念する傾向がございます。
今後、社会問題にもなりかねない「認知症と不動産」という課題について、私たちは、真正面から取り組んで参りたいと思います。

最後に

基本的には、本人名義の不動産は本人の意思確認が無ければ「売却」「賃貸」「建物の解体」等(法律行為)を行うことが出来ないのが実情です。現在、抱えている問題についても、それぞれのご家庭によりご事情が異なり、今後の対応方法についても思案されるかと思います。そのような時には、どうぞお気軽にご相談下さい。

 

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