所有する土地の数が多ければ多いほど、その実態は玉石混交とうことになりがちです。
駅前で立地条件が良く現在は駐車場にしているけれど、
ここに賃貸マンションでも建てればさぞや収益が見込めそうな土地もあれば、
駅から遠く離れてだれも欲しがらないような土地もある、
といったことが多いようです。
優良な土地は、相続が起こる前にそのメリットを最大限に生かした収益不動産にしていくのがベストです。
ところが現実には、その数少ない優良資産を遺産分割の際にみすみす手放さなければならない
羽目になることが少なからずあります。
Aさんは、生前、「駅前で駐車場にしている土地について、いつかマンションを建てたい」というのが
口癖でしたが、それを実現させることなく他界しました。
妻がすでに亡くなっているので、相続人は5人の子どもたちです。
相続税の評価は5億円で、その内訳は駅前の駐車場と貸し宅地の評価を合わせて4億円で自宅が7000万円。
ただし、資産に占める現金の割合が小さく、預貯金は3000万円にとどまっていました。
相続税額は1億2千万円です。預貯金だけでは納税資金がまかなえないないため、
どうやって納税資金を捻出するか、さらには納税後の資産をどのように分けるかとういう
話し合いの場が持たれました。
ところがきょうだいたちの関心は、納税よりも遺産分割に集中します。
「貸している土地をもらったってしょうがない」
「うちは土地よりも現金が欲しい。これから子供たちが次々と大学に進学するようになるから、
親父の預金の一部をもらえるとすごく助かる。」
「お金が欲しいのはうちだって同じだ」とはいえ、残された現金は預貯金の3000万円ですから、
相続税の納付にも到底足りない金額です。
「だから駅前の駐車場にしている土地に賃貸マンションを、早く建てておけばよかったのに・・」
82年の生涯でただの一度も借金というものをしたことがないAさんは「いつかマンションを建てたい」
が口癖ではあったものの、ローンを組むことに強い抵抗感があり、
子供たちや銀行の担当者にどんなにかき口説かれても「金が貯まったら建てる」の一点張りで、
ガンとして聞く耳を持たなかったのです。
長男としては、駅前の土地だけは守りたいという思いがあったものの、
相続開始から10ヶ月という相続税の納付期限が刻々と迫ってくることや、
「土地よりもお金が欲しい! 駅前のあの土地を売ってみんなで分けよう」と言う
きょうだいたちに抵抗しきれなかったことから、ついに売却を決意しました。
結果的に一番守りたかった土地を売却せざるを得なくなったのは、返す返すも残念なことでした。
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